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対談:デジタル時代に、日本が進む道対談:デジタル時代に、日本が進む道

経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会として提唱されている「Society5.0」。
IoTをはじめとしたテクノロジーで、サイバー(仮想空間)とフィジカル(現実世界)を高度に融合させることで生まれる「Cyber Physical Systems(CPS)」、Society5.0時代の産業の変革と発展に欠かせない「アーキテクチャ」。これらをベースに、経済産業省商務情報政策局 局長 西山 圭太氏と株式会社東芝 コーポレート デジタイゼーションCTO 山本 宏が、日本が目指すべき方向性について語り合った。

Society5.0を迎える世界的な情勢について、どのようにお考えでしょうか。

経済産業省 商務情報政策局 局長 西山圭太 氏
西山

まず、現在の情報化社会で今、起きていることは、過去に4回しか人類社会が経験していないような大きな変化です。そして5回目となるポスト情報化社会のSociety5.0(*1)では、さらに変化が大きくなり、今までの人と社会のあり方、経済・産業構造までが大きく変わってきます。もちろん、日本だけでなく世界で、グローバルビジネスにおいてもこの大きな変化が起きるでしょう。現代社会では、IoT、AI、ブロックチェーン、ビッグデータ、センサーなど、時代の変化に合わせてさまざまな動きや重要ワードが出てきていますが、大きな潮流として一番大きな変化は、OT(運用技術)とIT(情報技術)の融合、サイバーとフィジカルがつながる世界が実現し始めていることだと思います。

これまでサイバーとフィジカルをつなぐには、コンピュータに人がデータを入力し、処理結果に基づいてアクションするのにも、人の介在が必要でした。それが、ポスト情報化社会では、センサーやアクチュエータ(*2)でサイバーとフィジカルがダイレクトにつながるようになり、人が介在しない高度な自動運転・自動制御など、まったく新しい仕組みや動きが生まれ、従来の世界ではできなかったことができるようになっていきます。

山本

そうですね、西山局長のおっしゃる通り、これまで別世界だったOTとITが、融合し始めており、モビリティ(交通システム)や自動運転、エネルギーなどをはじめ、社会のさまざまな部分で、サイバーとフィジカルがダイレクトにつながり、ビジネスプロセスも統合され、サービス化が進んでいくことは間違いありません。社会構造の変革ですね。

Society5.0で、サイバーとフィジカルが繋がると、どのようなことが起こるのでしょうか。

西山

これからの時代は、スマートスピーカーのように音声で操作をしたり、眠っている間に人の健康状態を機械が読み取って一人ひとりにとって快適な空調空間を作り出したりする仕組みが当たり前のようになっていくでしょう。人が判断してデータ入力してからコンピュータで何かを動かす仕組みがない世界。これが当たり前になってくる訳です。

山本

そうですね、まさにここでAIが活躍することになります。これまでは人がプログラムを書いて人が入力する1方向の関係性でしたが、認識技術の発展で、コンピュータが人の行動やプロファイルを認識して自動的にフィードバックできるようになりました。サイバーとフィジカルがダイレクトにつながるといっても、そこに人の行動や認識が絡んでいると言う、NIST*が「ヒューマンインタラクション」を加えて描いたCPSの姿になってくる。

※NIST:アメリカ国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)
西山

確かに、サイバーとフィジカルがつながると、世の中をどう認識するかと言う世界観が大きく変わってきます。物理学の世界に例えれば、ニュートン力学では3次元の絶対的空間があって、そこにモノが存在すると言う、空間の座標軸が絶対的な世界観でした。ところがその後、相対性理論や量子力学が出てきて、空間あるいは時間さえもが絶対的ではない、ブラックホールのような巨大な質量の近くでは時空さえも歪んでしまうことがわかってきました。これは世界をどのように認識するか、と言う観点が革命的に変わった出来事でした。

これと似たことが情報産業におけるサイバー空間でも起きており、強大なクラウドサービスの様な何かが出て来ると、そこにすべてが引き寄せられてしまう力を持つ “新しい世界”が生まれてきています。そして、サイバーとフィジカルがつながると、産業や社会の現実世界にさらに大きな影響を及ぼすことになります。従来の考え方が通用しない“新しい世界”をどう捉えるか、その世界観、枠組み、視点が重要になってきたと考えています。先程の物理学の世界の例えで言えば、絶対的な空間に代えて、時空を自分がある程度規定するみたいな発想が必要になると思います。

山本

確かにICTの進化で、時間や空間の制約を受けずに世界中の人たちとディスカッションや仕事ができるようになっていますし、これがさらに加速しています。一方で新たなリスクもあるのが事実で、そのトレードオフをどのように解決するのか、と言うことも重要な課題です。

市場経済社会から、ネクスト市場経済社会へ

株式会社東芝 コーポレートデジタイゼーションCTO 山本宏
西山
株式会社東芝 コーポレートデジタイゼーションCTO 山本宏

市場と言う概念は、アダム・スミスの言う”神の見えざる手(*3)”によって統御された平等な空間で、そこに参加していれば一定の商売ができる場でした。しかし、サイバー空間では新たな創造的ビジネスモデルが出来ると、その周りの市場までが大きく変わり、それが新たな市場として規定されて、これを前提とした競争になってしまう。特にデジタル・プラットフォーマーのような大きな存在であればあるほど、これが顕著です。中立的な競争ではなく、実勢的に彼らが有利になるように時空が歪められると言う競争になっているのです。

つまり、そこでは自社優位につなげるために既存の競争相手を新しい市場の一部に組み込んでしまうような、新たなビジネスモデルの構築、新たな市場のルールを規定する共通化や規格化の流れをつくり出す動きになっています。これは要するに、既存の市場・競争ルールを上空から眺めて、新たな時空のあり方・モデルをつくりだすような「メタ認識の競争(メタ競争)」になってきている、と言うことなのです。メタ競争が繰り広げられる市場で優位に立つには、全体を俯瞰した客観的な指針や方式が必要です。

頑張り続ければ勝てると言う時代は終わりました。今後は、グローバルで客観的な視点でのメタ認識に立ったアーキテクチャを確立していくことが日本の産業には必要なのです。このアーキテクチャが確立できないと、グローバルでの新たな市場や経済活動では勝つことが出来ない、と言うことを認識しなければなりません。

山本

おっしゃる通りです。その新たな市場、新たな経済活動で重要になってくるのがデータです。データを集めてみたら結果として世界中にインパクトがある革命が起きてしまった、データの集積が人々・経済価値を引き寄せるといった、あたかも重たい星の重力で空間が歪むようなことがサイバー空間で起きています。決定的に重要なのはデータです。

データには「ヒト」「モノ」「マスター(システム)」と言う3種類がありますが、物や人に対して適切なフィードバックを行うためには、エンジニアリングデータや保守履歴データといったノウハウがあるマスターデータが重要です。このマスターデータをもとにどのようなアクションが一番妥当なのかを導き出すことや、産業に新たな付加価値を創出するための「Connected Industries」と言う考え方が大切です。そして、これらを実現する観点では、日本にアドバンテージがあると言えます。

Connected Industriesの次なる打ち手、アーキテクチャの重要性についてお聞かせください。

経済産業省 商務情報政策局 局長 西山圭太 氏
西山

新しい世界では、中立的な競争が少なくなっていくので、競争するためにメタ認識が必要です。これまで、日本の産業はここがうまくなかった。しかしもう逃げ場はないですし、前提が変わってしまったのですから、対応していくしかありません。メタ認識をするための手法として、アーキテクチャがあります。これは、わかりにくい構造を如何にわかりやすく描くか、説明できるようにするか、と言う、ある意味での“シンキングツール”としても必要です。

山本

もともとアーキテクチャは建築から来ている言葉で、これが重要なのは、共通言語としての役割があると考えられます。サイバーフィジカルの世界は1社で作り上げることはできません。自社が何をやり、パートナーがどこを担当し、どのブロックをソリューションプロバイダに任せるのかといった、共通の枠組みScope of worksがないと上手く実現できません。

日本の場合、最初にテクノロジーありきで考える傾向がありますが、そのやり方ではテクノロジーに足を引っ張られてしまい、本当の意味でやりたいことが実現できない。やりたいことを全体から俯瞰して、何が必要かをロジカルに考える、システム思考が必要だと言うことをしっかり理解しておくべきですね。

産業の活性化や社会課題の解決を図るため、CPSや"東芝IoTリファレンスアーキテクチャ"はどのように有効なのでしょうか。

株式会社東芝 コーポレートデジタイゼーションCTO 山本宏
山本
株式会社東芝 コーポレートデジタイゼーションCTO 山本宏

東芝グループは、2018年11月に公表した全社変革計画「東芝Nextプラン」の中で、技術戦略の核をCPS(Cyber-Physical Systems)と位置付けることを発表しました。140年超にわたり製造分野で培ってきたフィジカル技術と、産業分野のデジタル化で培ったIoTやAIなどのサイバー技術とを融合させることで、お客さまや社会のデジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)を推進しようとするものです。この戦略を実現すべく「東芝IoTリファレンスアーキテクチャ(Toshiba IoT Reference Architecture)」を策定しました。

CPSやアーキテクチャは目的を達成するための手段です。まず「何を実現したいのか」が大事なので、アーキテクチャが実現しようとしている目的を明確化することから始めました。そこで参考にしたのが、NISTのCPSフレームワークです。日本では、人に関わる仕組みが重要だと考えており、その考え方に合致していたのです。また、Achatech(ドイツ科学技術アカデミー)、ベストプラクティスといわれているIIC(*4)のリファレンスアーキテクチャであるIIRA(*5)なども参考にしました。このような考え方は、各方面から非常に注目を集めています。

私は、東芝IoTリファレンスアーキテクチャを世界標準に反映したいと考えています。
東芝や日本が世界で戦う時の強みはフィジカル技術にあります。これをアーキテクチャに組み込んで世界にオープンにすることで、CPSで日本がリーダーシップをとりたいと思っています。そしてどこで協調してどこで競争するかっていうことを、きちんと見える化するためにもアーキテクチャが必要だと思います。

西山

新たな社会の実現に向けた山本さんのお話には私も共鳴します。

現在、IoTやCPSにおける日本の地位はむしろ低いのが実情です。日本がこの分野でグローバルな視点での理念を掲げながらリーダーシップが発揮できるよう、官民が力を合わせて協力し、しっかりアピールしていきたいと思っています。東芝さんの取り組み、東芝IoTリファレンスアーキテクチャとこれに伴うサービス事業の展開、そして多くの国内事業者の方々に大変期待しています。

グローバルではNISTやIICなどのフレームワークが出てきていますが、これに対する政府としての取り組みや、IT人材の育成などについてはいかがでしょうか。

西山

この分野で一例をあげると、アーキテクチャ設計の官民体制としてNISTplusと言う構想を立ち上げ、その分野に詳しい人材を集めてアーキテクチャづくりを進めていきます。個社のためではなく、全体を描けるアーキテクチャを、分野を超えて、どのように使うかの観点で、つくり出したいと思っています。

産業と市場構造を規定するアーキテクチャは本当に重要で、これを理解して活用しないと競争では優位に立てません。今後は、アーキテクチャづくりを政府としてアシストするような仕組みを、各省の共通アセットとして作っていきたいと考えています。

また、2019年1月23日のダボス会議で安倍総理がスピーチし、そのなかで"Data Free Flow with Trust"と言うキーワードが語られています。DFFTでは、機微なデータは慎重に扱いながら、信頼をもとに有益な情報を行き来させる枠組みを、日本からの呼びかけでつくっていきたいと思っています。世界の中心でアーキテクチャを叫ぶことで、他国とも共鳴しながら規制改革を進め、国内でも官学民が連携しながら進めていきたいと考えています。

山本

DFFT、官学民の連携やオープンイノベーション、規制改革など、これからますます重要になりますね。

西山

今後に向けて、規制改革、コーポレートガバナンスのあり方、デジタルプラットフォーマへの規制、人材育成などを、政府として積極的に進めていきたいと思っています。

今後の取り組みも含め、読者の皆さまに一言ずつ、お願いします。

西山

改めて世界の市場環境や産業がメタ競争になっていることに気づき、やり方を間違えると大きく遅れをとることにもなりかねないと言うことをご理解いただきたいと思います。
これについては経済産業省としても相当な覚悟で取り組むべきと考えています。
また、アーキテクチャを理解し、競争領域と協調領域をうまく切り分けるといったことをアーキテクチャに基づいた議論で展開していく必要があります。

日本はいままさに正念場を迎えており、日本全体でどう立ち向かっていくべきなのか、政府としてしっかりと日本が進むべき方向性を見据え、政策を実行し、さまざまな形で皆さまの支援を続けて参ります。

山本

日本は人口が減っていくなかでも、GDPを増やして国際競争力を高めていくために、日本が持っているノウハウを次の世代に伝承することが重要だと思います。もちろんAIをはじめとしたテクノロジーを駆使することも大切ですが、人の五感や匠の技と言うのをきちんと受け継ぐような仕組みも重要ですね。そして私は、東芝が変革と成長を果たして、世界の中で日本の存在感を(GDPを含め)高めていくことに全力を尽くしたい。

東芝は、成長領域に1.7兆円の投資を集中し、昨秋に策定した中期経営計画「東芝Nextプラン」を実現することにしています。経営理念の「人と、地球の、明日のために。」を胸に、新しい未来を始動させ、その未来を引っ張っていく気概を持って事業を展開します。そして日本経済の一翼を担い、産業の発展とより良い社会を実現させていきたいと思います。

どうもありがとうございました。
(写真右)
西山圭太 氏
(Keita Nishiyama)

経済産業省 商務情報政策局長

昭和60年通商産業省(現経済産業省)入省。

平成4年 オックスフォード大学卒業。平成29年 原子力損害賠償・廃炉等支援機構 経営改革支援室長、東京電力ホールディングス株式会社取締役(会長補佐兼 経営企画本部担当(共同))。平成30年7月より現職。

(写真左)
山本宏
(Hiroshi Yamamoto)

株式会社東芝 コーポレートデジタイゼーションCTO(Chief Technology Officer)

昭和57年 国内電機メーカー入社、組み込み系ファームウェア開発を担当、昭和63年、日本アイ・ビー・エム株式会社入社。平成5年 システムエンジニアリング部門にて、分散オブジェクト・分散コンピューティングのエンタープライズシステムへの展開を担当。 平成25年 IBMコーポレーションより「グローバル・エレクトロニクス・インダストリーCTO」に任命。平成30年年7月より現職。

この記事の内容は2019年2月27日に取材した内容をもとに構成しています。
記事内の数値データ、組織名、役職などは取材時のものです。
*1:
Society5.0

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。

内閣府「Society5.0」
*2:
アクチュエータ(Actuator)

油圧や電動モーターによって、エネルギーを並進または回転運動に変換する駆動装置。

*3:
神の見えざる手

イギリスの哲学者、倫理学者、経済学者のアダム・スミスが「国富論」で提唱。市場において、各個人の利己的な行動の集積が社会全体の利益をもたらすと言う調整機能。

*4:
IIC(インダストリアル・インターネット・コンソーシアム)

IoT技術、特にインダストリアルインターネットの産業実装と、デファクトスタンダードの推進を目的として、2014年3月27日に設立された国際規模の団体である。

IIC公式サイト
*5:
IIRA:(Industrial Internet Reference Architecture)

IICのリファレンス・アーキテクチャ。新たなIoTサービス創出に向けて各ステークホルダが取り組むべきものとして、Business Viewpoint / Usage Viewpoint / Function Viewpoint / Implementation Viewpointの4つの視点でIoTシステム・ソリューションに関わる情報や制御のやり取りが定義されている。

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